
福祉社会と老人問題
日本で「福祉」という言葉が重要な政治的課題として語られるようになったのは、今から40年ほど前の1970年代後半以降です。戦後、日本中が猛スピードで経済の発展に邁進したことにより、世界でも類例があまりない短期間での高度成長が実現できた反面、水俣病やイタイイタイ病などの深刻な公害病が日本各地で発生し、これらは急速な経済重点政策が生んだ大きな負の遺産として記憶されることとなります。
そして、福祉が声高に叫ばれるようになったひとつのきっかけとなった映画が1970年代後半に公開されています。その映画の題名は「恍惚の人」でした。「恍惚」という聞き慣れない単語と、当時はまだ痴呆症と呼ばれ、その実態などもあまり知られていなかった「認知症」と老人介護の問題に真正面から斬り込んだ問題作ではありましたが、娯楽性に乏しいことから、映画関係者の誰もがヒットとは無縁と予想していた映画に過ぎなかったのです。
ところが、このような暗いテーマの映画としては空前の大ヒットとなり、「恍惚」という単語は本来の意味を離れて認知症の症状を示す単語として定着したほどでした。
映画「恍惚の人」がヒットした背景には、実際には老人介護に苦しむ人々が多く存在してしたにも関わらず、それを社会的問題として俎上に挙げる環境が、当時の日本社会では醸成されていなかったともいえるでしょう。
経済の安定と福祉社会の実現
そして、老人問題と福祉社会のあり方がクローズアップされたことで、福祉国家としてすでにさまざまな政策を実現させていた北欧諸国に取り組み方が注目され始めたのもこの時期です。福祉問題は、やがて到来する高齢化社会で起こりうる諸問題ともあいまって、1980年代以降は国民全体が考えなければならない国家的課題という認識が広まっていくこととなります。
当時の自民党政府は、北欧諸国にならい消費税を導入し、これを福祉目的に適用させることで、将来訪れる高齢化社会の政策財源とすることを訴え、一部野党とも連携して日本初となる消費税が3%の税率で1988年にスタートしました。
それから約4半世紀の時が流れ、2014年には税率は8%にアップし、翌年には10%に引き上げられる予定となっています。消費税の導入とほぼ同時期に日本は大不況の時代に突入し、いまだにその影響を受け続けている企業が少なくありません。今後さらに消費税率がアップすることで、せっかく上向きかけた景気がまた後退し、福祉行政にもマイナスの影響が出ることを危惧する声もあります。
これからの日本は、経済の安定化を図りながら、いかに福祉社会を実現していくかが最大の国家的課題となることでしょう。
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